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大阪地方裁判所 昭和24年(行)126号の3 判決

原告 山内静子 外三名

被告 美原町農業委員会・国

主文

一、別紙第一物件表の4ないし6記載の土地について

(一)、原告らと被告委員会との間で、大阪府南河内郡黒山村農地委員会が定めた買収の時期を昭和二四年七月二日とする買収計画を取り消し、同村農地委員会が同年六月五日になした右買収計画に対する山内利一の異議の申立を却下する旨の決定は無効であることを確認する。

(二)、原告らと被告国との間で、右買収計画にもとづき大阪府知事がなした買収令書の交付は無効であることを確認する。

二、別紙第一物件表の1ないし3記載の土地について、被告委員会との間で買収計画の取消し並びに買収計画及び異議却下決定の無効確認を、被告国との間で訴願の裁決及び買収令書の交付の無効確認を求める原告らの請求を棄却する。

三、別紙第二物件表記載の土地について、被告委員会との間で買収計画の取消し並びに無効確認を、被告国との間で訴願の裁決及び買収令書の交付の無効確認を求める原告恭子の請求を棄却する。

四、原告らのその余の訴えを却下する。

五、訴訟費用はこれを二分し、その一を被告らの連帯負担、その余を原告らの負担とする。

事実

第一、申立

(原告ら)

一、被告らと、別紙第一物件表記載の土地については原告ら、同第二物件表記載の土地については原告恭子との間で、

(一)、大阪府南河内郡黒山村農地委員会が右土地について定めた買収計画及びこれにもとづく政府の買収を取り消す。

(二)、右政府の買収及び買収計画並びにこれに関する公告異議却下決定、裁決、承認、買収令書の発行はいずれも無効であることを確認する。

二、訴訟費用は各被告の負担とする。

との判決を求めた。

(被告ら)

本案前の申立として

一、本件訴えのうち被告国に対する部分を却下する。

二、訴訟費用のうち原告らと被告国との間に生じたものは原告らの負担とする。

との判決を求め、本案につき

一、原告らの請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求めた。

第二、請求の原因

一、被告委員会の前身である大阪府南河内郡黒山村農地委員会(以下村農地委という)は、昭和二四年五月、別紙第一物件表記載の土地(以下「別紙……物件表記載の」を省略し、第一土地、第一の1の土地というように適宜略称する。)を原告らの先代山内利一が所有する自作農創設特別措置法(以下自創法という)三条一項一号の小作農地であるとし、第二土地を原告恭子所有の同法一五条一項の農業用施設であるとして、買収の時期を同年七月二日とする第一二回買収計画を定めた。右利一と原告恭子はこれに対して異議の申立をしたが、却下されたのでさらに訴願をした。しかし、同年六月二八日棄却の裁決があり、同年八月二〇日その裁決書が送達され、その後買収令書が発行交付されて政府買収が実施された。

二、しかし、右買収には次のような違法がある。

(一)、第一土地関係

(1)、所有者を誤認している。

第一土地は、もと松本信蔵の所有であつたが、利一がこれを買い受けたうえ、さらに原告恭子に譲渡し、本件買収計画当時は同原告がこれを所有していた。それゆえ、これを利一の所有であるとしてなされた本件買収は無効である。

(2)、小作地でない。

第一土地は、原告恭子の自作地(休閑地)である。かりに被告ら主張のとおり松本信蔵が耕作していたとしても、それは同人が利一に右土地を売り渡しておきながら、その引渡しをしないで、不法に耕作していたにすぎず、利一あるいは同原告において松本にこれを賃貸した事実はない。

(3)、不在地主所有の小作地ではない。

かりに第一土地が小作地であるとしても、所有者である原告恭子は本件買収計画当時黒山村に居住していたから、右土地は在村地主の所有する小作地であるのに、不在地主所有の小作地として買収したのは違法である。

(二)、第二土地関係

(1)、農業用施設ではない。

第二土地は、原告恭子が前記松本から地上建物を同人において取り壊す約束で買い受けた宅地であつて、松本が農業経営に必要とする土地ではない。

(2)、買収申請人が不適格者である。

第二土地は、右松本の買収申請にもとづいて買収されたものであるが、同人は、利一が自創法により買収された農地六筆計六反二畝一一歩の売渡を受けておらず、第二土地を買取ることができる精農ではない。右土地は、かえつて第一土地を自作していた原告恭子が地上に居宅を新築し、第一土地の農業経営上の施設にあてようとしていたものである。

(3)、二重処分である。

第二土地については、さきに被告ら主張のとおりの買収処分がなされている。右処分は、その後被告ら主張のとおり取り消されたが、右買収処分自体が無効であるから、その取消処分も無効である。また大阪府知事(以下府知事という)に買収処分の取消権はない。

(三)、共通関係 その(一)(対価の違法)

買収時期における時価は、第一土地は一反歩五万円、第二土地は一坪三〇〇円を下らなかつたのに、本件買収の対価は別紙各物件表記載のとおりに定められた。しかし、宅地の対価が時価を参酌して定めるべきものであることは法の明定するところであり、農地の対価に関する自創法六条の規定も対価を法定または公定する強行規定ではなく、訓示規定であるから、時価を無視して対価を定めたのは違法である。また、その支払にかえて交付される農地証券の時価が当時額面の半額強に下落していたことは公知の事実であり、これを特別事情として考慮しなかつたのも違法である。

(四)、共通関係 その二(手続上の違法)

(1)、買収計画

本件買収計画は、村農地委作成名義の買収計画書という文書で表示されている。しかし、村農地委に備えてある議事録によつても、右文書の内容と一致する決議のあつたことは明らかでない。また右買収計画書には決議を要する買収計画事項の全部が完全には表明されていない。すなわち、右買収計画書は村農地委の決議にもとづき、かつ法定の内容を具備する適式の買収計画書と認めるに足りない。買収計画書は委員会という合議体の行政行為的意思を表示する文書であるから、買収計画書に委員会の特定具体的決議にもとづいた旨の記載とその決議に関与した各委員の署名あることをその有効要件とするのに、本件買収計画書には右の記載と署名がない。

(2)、公告

市町村農地委員会はその決議をもつて買収計画の公告という行政処分をしなければならない。この公告は買収計画という委員会の単独行為を相手方に告知する意思伝達の法律行為である。適法な公告があつてはじめて買収計画に対外的効力が生ずる。ところが、本件買収計画の公告は村農地委の決議にもとづいていない。それは、村農地委の公告ではなく、会長の単独行為であり、その専断に出たものである。また公告の内容は買収計画の告知公表であることを要するのに、本件公告は単にその縦覧期間とその場所を表示したにすぎず、自創法六条に定める公告としての要件を欠いている。

(3)、異議却下決定

これは買収計画に対する不服申立についての当該農地委員会の審判であるから、文書で表明され異議申立人に告知されることによつて効力を生ずる。ところが、利一及び原告恭子に送達された異議却下決定と一致する決議を村農地委がした証跡は同委員会の議事録にもない。また決定書は委員会の審判書といえる外形を備えておらず、委員会長の単独行為又は単独決定の通知書にしかすぎない。

(4)、裁決

大阪府農地委員会(以下府農地委という)が利一及び原告恭子の訴願について裁決の決議をした事実はあるが、この決議は裁決の主文についてのみ行なわれたにすぎず、主文を維持する理由についての審議を欠く。ゆえに利一及び原告恭子に送達された裁決書の内容に一致する委員会の決議はなかつたというべく、裁決書は同委員会の意思を表示する文書ではない。また、裁決書は右委員会の会長である府知事の名義で作成されているが、会長が訴願の審査と裁決の決議に関与しなかつたことは公知の事実である。ゆえに裁決書は委員会の裁決に関する意思を表示する文書とはいえない。裁決書を会長名義で作成することは法令上許されない。

(5)、承認

買収計画の承認は申請にもとづき、買収計画に関して検認許容を行なう行政上の認許で、行政行為的意思表示であり、行政処分たる性格を有する。買収計画はその公告によつて対外的効力を生じ、さらにこれに対する適法な承認によつてその効力が完成し、ここに確定力を生じ政府の内外に対し執行力を生ずる。ところで、本件買収計画に対しては適法な承認がない。府農地委が本件買収計画に対して法定の承認決議をした外形はあるが、その承認申請は村農地委の議決にもとづかないでなされたものであり、しかも右承認の決議は裁決の効力発生前になされたものであるから無効である。また、本件買収計画に対して承認の決議はあつたが、決議に一致する承認書が作成されておらず村農地委に対する送達告知もなされていない。すなわち適法な承認の現出、告知を欠いており、承認という行政処分は存在しない。仮に右の決議をもつて承認と解しても、このような決議は法定の承認としての効力がない。

(6)、政府の買収

自創法による農地、宅地等の政府による買収は、一種の公用徴収である。この政府の買収には広狭二義があり、狭義では買収を目的とする行政処分のみを意味し、広義ではこの処分とその執行を包含する。狭義の政府買収は政府みずから行う行政処分ではなく、その買収権限の委譲を受けた各農地委員会がこれを行う。すなわち、その決議により、買収計画を確定して、これを公告し、異議、訴願の中間手続を経て、適法な認可または承認が効力を生ずることにより、買収計画の確定をみ、狭義の政府買収が成立する。しかし、法律はこの場合にその成立を外部に公表する独立の文書(政府買収書)の作成を要求していないから、その成立は、買収計画の認可または承認の外形的行為である認可書または承認書の各委員会に対する送達によつて確認すべきである。この狭義の政府買収は、府知事が買収令書を発行し、これを被買収者に交付または公告することにより執行し、ここに広義の政府の買収すなわち公用徴収が客観的に完成実現される。

ゆえに、政府の買収の効力の判定は、究極するところ買収計画と買収手続の有効無効の判定に帰し、これらの各行政処分のいずれかにかしがあり、無効であれば、政府の買収そのものも無効である。

(7)、買収令書の発行

前述のとおり、買収令書の発行、交付は、政府の買収の執行行為である。ゆえに、(イ)買収令書により表示された買収要項が買収計画の内容と一致しない場合、(ロ)適法な認可または承認が効力を生ずる前に買収令書が発行された場合、(ハ)買収計画に定められた買収の時期以後に発行された場合(この場合は買収計画の執行にあたらない)、(ニ)買収令書に誤記違算がある結果買収計画とその内容を異にする場合(この場合は買収令書自体がその要素において無効である)は、買収令書の発行は無効となる。

三、以上のとおりであるから、本件土地に関する政府の買収、買収計画、公告、異議却下決定、裁決、承認、買収令書の発行交付はすべて無効である。

よつて申立どおりの判決を求める。

なお、利一は本訴係属中の昭和三八年二月二六日に死亡したので、その妻の原告静子、長女の同恭子、二女の同藤江、長男の同直巳が相続によりその地位を承継した。

第三、被告らの答弁ならびに主張

(本案前の主張)

被告国は、行政事件訴訟特例法三条により、行政処分取消訴訟の被告適格がない。また、行政処分無効確認訴訟も行政処分の効力を争うものである点で取消訴訟と同種のものということができ、国には被告適格がない。従つて、本件訴え中被告国に対する部分はすべて不適法である。

(本案の答弁ならびに主張)

一、請求原因一の事実は、買収計画樹立の日時を除いて、すべて認める。村農地委は昭和二四年四月二三日に本件買収計画を定め、同月二七日に公告した。利一と原告恭子が異議の申立をしたのは同年五月一九日及び同年六月三日であり、同年五月二五日及び同年六月五日にその却下決定をした。訴願が提起されたのは同月三日及び同月一〇日であり、同年七月一日に買収計画が承認せられて、同月一七日利一と原告恭子に買収令書が交付された。

なお、本件土地については、さきに昭和二三年一〇月一九日村農地委において、本件の場合と同様、第一土地は自創法三条一項一号により、第二土地は同法一五条一項二号により、同年一二月二日を買収の時期とする買収計画を定め、その承認を受けた。ところが、利一と原告恭子は右買収期日後の同月一五日異議の申立をしたので、村農地委は宥恕すべき事情があると認めて審理したうえ、これを棄却した。利一と原告恭子は同月三〇日訴願したが、利一の訴願についてはその頃棄却の裁決がなされた。しかし、利一はこれを不当としてさらに府農地委に陳情したので、府農地委において調査した結果、第一土地の買収処分には手続上違法の点のあることが判明し、第一の1ないし3の土地については昭和二四年四月一二日付大農委第三六四〇号をもつて、第一の4ないし6の土地については同年五月二四日付同第四〇二三号をもつて、買収計画の承認を取り消した。村農地委においても、その頃右買収計画の取消しを議決し、その旨利一に通知している。原告恭子の訴願については昭和二四年六月二八日棄却の裁決があつたが、第一土地の買収計画が取り消された結果、その売渡を受ける予定であつた松本信蔵が第二土地の買収申請資格を失うことになつたので、府知事は、右買収処分の無効宣言の意味で、昭和三五年六月七日達第一七二二号をもつて同原告に対しその取消しを通知した。

二、請求原因二の事実のうち、本件土地がもと松本信蔵の所有であり、利一が第一土地を買い受けたこと及び第二土地を松本信蔵の買収申請にもとづいて買収したことは認めるが、その余の主張は争う。本件買収は、実体上も手続上もなんら違法不当のない適法なものである。

(一)、第一土地について

第一土地は、昭和一四年六月に利一が松本から買い受けたのちも、賃料反当り年玄米一石一斗二升五合の約で、松本が利一から期間の定めなく賃借し、表作に水稲、裏作にそ菜類を栽培して、その耕作を続けてきた小作農地である。右土地については昭和二一年八月二八日利一から原告恭子名義に所有権移転請求権保全の仮登記がなされているが、所有権移転の本登記があつたのは本件買収処分後の昭和二四年八月二七日であり、本件買収当時には利一の所有であつた。利一は当時堺市に居住していたから、第一土地を不在地主である同原告所有の小作農地と認めて買収したのは適法である。

(二)、第二土地について

第二土地の買収計画は昭和二三年九月二一日付の松本の買収申請にもとづいて定めたものである。右土地は、昭和一四年六月に松本が利一に対して地上建物を収去する約定のもとに売り渡したが、松本の都合で、右建物収去の約束をとりやめ、引続き賃料反当り年玄米一石一斗二升五合の約で期間の定めなく賃借し、右建物の所有を続けてきた宅地である。右土地はまわりを第一土地に取り囲まれ、これと一体不離の密接な関係にあり、松本は、ほぼ正方形をなす右第二土地の北側約三分の一に住宅及びその附属施設を所有し、南側約三分の一に作業場、収納庫兼用の農具舎を建て、中央の約三分の一を脱穀、もみ干し場として使用し、第一土地を前記のとおり耕作していた専業農家である。このように、第二土地は第一土地の本件買収によりその自作農となるべき松本が、右農地の農業経営に不可欠の施設として使用していた賃借宅地であるから、村農地委がこれを自創法一五条一項二号により買収すべきものと認めたのは相当である。

第四、証拠〈省略〉

理由

(本案前の判断)

一、政府買収の取消及び無効確認を求める原告らの訴えについて

原告らが主張するような包括的な概念としての政府買収を一個の行政処分として出訴の対象とする必要も利益もないから、右訴えは不適法である。

二、買収計画の公告、その承認の無効確認を求める訴えについて

買収計画の公告は買収計画の表示行為にすぎず、その承認は行政庁相互間の内部的行為にすぎないから、いずれも行政訴訟の対象となる行政処分ではない。右訴えは不適法である。

三、被告国との間で買収計画の取消しを求める訴えについて被告国は本件買収計画の処分庁でないから、右訴えは、行政事件訴訟法(以下行訴法という)附則六条、行政事件訴訟特例法(以下行特法という)三条により、被告を誤つた不適法な訴えである。

四、被告国との間で買収計画及び異議却下決定の無効確認を求める訴えについて

行訴法施行の際に係属していた行政処分無効確認の訴えにあつては、同法附則六条により、処分庁(行特法三条の準用)または処分の効果の帰属主体である国(民事訴訟の一般原則)を被告として、これを提起することが許される。しかし、同時に双方を被告とすることは、いたずらに手続の混乱をまねくばかりで、原告としても法律上なんら利益のないことであるから、許されず、同時に双方を被告として訴えが提起されたときには行特法三条の趣旨とするところにかんがみ、被告国に対する訴えを不適当として排斥すべきものと解するのが相当である。従つて、処分庁の承継人である被告委員会のほかに、同時に国を被告として提起された右訴えは不適法である。

五、被告委員会との間で、裁決及び買収令書の発行(交付)の無効確認を求める訴えについて

被告委員会は裁決及び買収令書の交付の処分庁ではないから、右訴えは被告を誤つた不適法なものである。

六、被告国との間で、第一の4ないし6の土地の裁決の無効確認を求める原告らの主張について

職権をもつて右訴願の裁決がなされたかどうかを判断するに、成立に争いのない乙九号証の二によると、利一は第一の4ないし6の土地の本件買収計画に関し昭和二四年六月一〇日訴願を提起したことが認められるが、これに対する裁決があつたことを認めうる資料はない。かえつて、成立に争いのない乙九号証の一、三、四及び六、同一〇号証によると、被告が裁決の日と主張する同月二八日に府農地委が利一に対してなした裁決及びその送達の日であることにつき当事者間に争いのない同年八月二〇日に利一に送達された裁決書は、いずれも第一の1ないし3の土地について同人が同年六月三日に提起した訴願に対するものであり、第一の4ないし6の土地の訴願に対するものではないこと及び右土地の買収計画が承認せられた同年七月一日の府農地委の会議においても、右土地に関する利一の訴願について裁決がなされた形跡はないことが認められ、これら認定事実を総合すると、第一の4ないし6の土地については、訴願の裁決がなかつたものと認められる。従つてその無効確認を求める右訴えは不適法である。

七、被告委員会との間で第二土地の買収計画の取消しを求める原告恭子の訴えについて

職権を以て第二土地の訴願前置の要件がみたされているか否かを判断する。成立に争いのない乙七、八号証の各二によると、本件土地を含む多数の土地につき村農地委が同時に定めた第一二回買収計画のうち、異議申立期間経過後の昭和二四年五月二五日現在、異議申立のあつたのは利一と訴外阪口茂照の二名のみであつて、原告恭子はその申立をしておらず、被告らが異議却下決定の日と主張する同日及び同年六月五日に開かれた村農地委の会議においても、同原告から異議の申立があつたものとして審議議決したような形跡はないことが認められる。また、成立に争いのない乙九号証の三、五及び六によると被告が裁決の日と主張する同月二八日に府農地委がした同原告に対する裁決は、同じ第二土地についてさきになされた第一〇回買収計画に関し同原告が昭和二三年一二月三〇日に提起した訴願に対する裁決の形式でなされたものであり、裁決書受領の日であること当事者間に争いのない昭和二四年八月二〇日に同原告に交付された裁決書というのも、この裁決書であることが認められ、これに前認定の同原告が異議申立をしていない事実を総合すると、原告恭子は本件買収計画に関し改めて訴願書の提出をしていないものと認めるほかはない。

しかしながら、右第一〇回買収計画が昭和二三年一二月二日を買収の時期とし、本件買収計画と同様に自創法一五条一項二号にもとづいて定められたものであることは当事者間に争いがなく、これにつき昭和二三年一二月三〇日訴願が提起され、昭和二四年六月二八日になつてその裁決がなされたことは前認定のとおりであるから、成立に争いのない乙四号証により同年四月二三日に樹立されたと認められる本件買収計画は右第一〇回買収計画に対する訴願中に定められたものであることが明らかである。このような場合、さきの買収計画を取り消すこともなく、重ねて同一内容の買収計画が定められることは通常予想しえないことであるから、同原告が本件買収計画の樹立を知らず、法定の期間内に異議訴願をしなかつたとしても、無理からぬ事情があつたものということができる。反面、前示乙九号証の三及び五によると、原告恭子の前記訴願は第一〇回買収の買収期日の約一箇月後に提起されたもの、従つて訴願期間経過後の提起にかかるものと推認されるのに、府農地委は不適法としてこれを却下することなく、昭和二四年六月二八日の会議において実体について審理したうえ、訴願を棄却する旨の裁決をしたこと、及び同日の会議においては大阪府下の各市区町村農地委員会が定めた第一二回買収計画に対して提起されていた多数の訴願についても審議議決されていることが認められるのであつて、これらの事実を総合すると、府農地委の原告恭子に対する前示裁決は、形式上は第一〇回買収計画に対するものであるが、その実質においては同原告の右訴願を第一二回買収計画に対する不服をも含む趣旨のものとして取り扱い、これに対する裁決を包含する趣旨でなされたものと解するのが相当であり、原告恭子は本件買収計画についても訴願の裁決をえたものというべきである。そして、異議申立の手続を経ていない場合であつても、訴願庁において適法な訴願があつたものと認めて棄却の裁決をした以上、右裁決は行特法五条四項にいう訴願の裁決にあたるから(最高裁昭和三〇年九月二三日判決、民集九巻一〇号一三四四頁参照)、前示裁決書送達の日である昭和二四年八月二〇日から一箇月以内に提起された原告恭子の右買収計画取消しの訴えは、この意味において訴願前置の要件をみたし、かつ出訴期間内に提起された適法な訴えというべきである。

八、第二土地につき被告委員会との間で異議却下決定の、被告国との間で裁決の無効確認を求める原告恭子の訴えについて

職権で調査すると、第二土地の本件買収計画に原告恭子の異議の申立及びその却下決定のなかつたことは前記七に認定したとおりであるから、被告委員会との間でその却下決定の無効確認を求める右訴えは、訴訟の対象となる処分の存在を欠き、不適法である。

次に訴願の点についても、原告恭子は本件買収計画について改めて訴願をしたわけではないが、府農地委が同原告のさきの買収計画に対する訴願を本件買収計画に対する不服申立を含むものとして取り扱い、これに対する裁決を包含する趣旨でその裁決をしたことは前記七に認定したとおりであり、形式上は第一〇回買収計画についての裁決であつても、本件買収計画についてなされた裁決としてその無効確認を求めることができるというべきである。同原告もその趣旨で右裁決の無効確認を求めているものと解せられなくはないから、右裁決無効確認の訴えは適法である。

九、以上のとおりであるから、以下被告委員会との間で買収計画の取消し、買収計画及び異議却下決定(第二土地を除く)の無効確認、被告国との間で裁決(第一の4ないし6の土地を除く)及び買収令書の交付(買収処分)の無効確認を求める原告らの請求について、本案の判断をする。

(本案の判断)

第一、第一の4ないし6の土地に関する原告らの請求について

成立に争いのない乙三号証によると、本件買収計画書(乙三号証)には第一の4ないし6の土地も買収すべき農地として記載されていることが明らかである。しかし、成立に争いのない乙一号証の一、同四号証、同六号証、同八号証の一、二及び文書の方式及び趣旨により真正に成立したと認められる同二号証の一を総合すると、次のとおり認められる。

村農地委は、第一土地の全部について、さきに買収計画を定めたことがあり、府農地委の承認も得ていたが、府農地委は、そのうち第一の1ないし3の三筆のみについて、買収に手続上の誤りがあつたとして、昭和二四年四月一二日さきになした承認を取り消し、その頃村農地委にその旨通知した(正式文書(乙一号証の一)による通知は同月二五日になされた)。そこで、村農地委は右土地を再買収することとし、同月二三日の会議でその審議をした。このときには乙三号証の買収計画書に買収すべき利一所有農地として記載されていたのは第一の1ないし3の土地のみで、第一の4ないし6の土地は記載されていなかつた。第一の1ないし3の土地についてのみ買収計画を定める理由について出席委員から質疑があつたが、議長(村農地委会長)から右三筆についてのみさきの承認が取り消されたことによるものである旨の説明があり、右三筆の買収計画を原案どおり定める旨の議決がなされた。右買収計画書は同年五月一日から一〇日まで縦覧に供されたのであるが、その後の同月二四日になつて府農地委は第一の4ないし6の土地についても承認の取消しをし、同月三〇日村農地委に通知した。村農地委では、右土地の買収計画樹立のため改めて会議を開くこともなく、本件買収計画書にこれを書き加えるとともに、同日利一に対して、府農地委の右五月二四日付承認取消通知により右土地も当然四月二三日樹立の買収計画に包含されることになるから、異議があれば同年六月五日までに申し立てるよう記載し、別紙に右土地の買収計画事項(自創法六条五項、二項所定の事項)を表示した文書(乙六号証)を送達した。これに対して、利一から同月三日異議の申立があつたので、村農地委は翌四日会議を開き、議長(会長)から経過を説明して、右異議を適法なものとして取扱うことにつき出席委員の了承を求めたうえ、異議を理由なしとして排斥する旨の議決がなされた。

以上のとおり認められ、右認定に反する証拠はない。すると、本件買収計画書に第一の4ないし6の記載があるからといつて、昭和二四年四月二三日の会議で右土地について買収計画樹立の議決がなされたことの証拠となし得ないことは明らかであり、他に右土地の本件買収計画の議決、公告、自創法六条五項所定の書類の縦覧がなされたことを認めうる証拠はない。すると右土地の買収計画には、樹立の議決、公告、縦覧の手続を欠く違法があるものというほかなく、このようなかしのある買収計画及び買収処分は当然無効と解すべきである。本件の場合、右認定のような通知をして利一に異議申立の機会を与え、村農地委において異議を適法なものとして取り扱い、実体について審議のうえ却下の決定がなされたのであるが、このような事実によつてもなお右かしが治ゆされたものとすることはできない。

従つて、右土地に関する本件買収計画書、異議却下決定、裁決、買収処分は、その余の点について判断するまでもなく、すでにこの点において無効であり、被告委員会との間で買収計画の取消し及び異議却下決定の無効確認、被告国との間で右裁決及び買収令書の交付(買収処分)の無効確認を求める原告らの請求は理由がある。

原告らは、被告委員会との間で右買収計画の取消しと無効確認の双方を請求する。そして弁論の全趣旨によると、原告らはこの両請求を互に相い容れないものではなく、併存し得るものとして併合請求していることが明らかであるから、両請求は単純併合の関係にあるものというべく、右取消請求のうちには無効事由と同一違法を事由とする取消しの請求を含むものと解せられる。ところで、行政処分の取消訴訟と無効確認訴訟は、出訴期間や訴願前置の制約を受けない点では無効確認訴訟の方が原告にとつて利益である反面、違法性の程度や主張立証責任の点あるいは取消判決の効力が第三者にも及び、他の訴訟の再審理由ともなりうる(民訴四二〇条一項八号)点では取消訴訟の方が有利な関係にあるといえる。このように、救済を求める側からみて、ある点では無効確認訴訟の方が有利であり、他の点では取消訴訟の方が有利である場合に、必ずいずれか一方の出訴方法を選択して出訴しなければならないものとすることは、国民に選択の危険を負担させることになつて不合理である。それゆえ、両請求は予備的併合の形式で併合提起できるのはもちろん、単純併合の形式で併合提起することも許されると解すべきである。しかし、この場合に二個の認容判決をなすべきかどうかは、さらに考えてみる必要がある。いわゆる請求権競合のときに単純併合説をとる場合にも二個の給付判決をなすべきかが問題とされるが、取消請求と無効確認請求の関係は、その場合とも全く異る。この両請求は、攻撃すべき行政処分のかしの程度に差異があるとはいえ、その処分の違法性を争うものである点においてその本質を等しくし(この意味で取消訴訟の訴訟物は無効訴訟のそれを包摂する関係にあるといえる。)その認容判決も、処分の時にさかのぼつて当該処分が効力を有しないことを具体的実体法として定立するものであることに異同はなく、一方は形成判決であり、一方は確認判決であるという意味で審判形式が異り、その結果これに付与される効力にいくらかの差異を生ずるにとどまる。そして、当該行政処分が無効と判断されたときには、その無効確認判決は、形成判決である取消判決の形成要件たる事実を重ねて確認する意味を持つにすぎない。その行政処分に無効原因となるかしが存在することについての理由中の判断が関係行政庁に対して拘束力を持つこと及び無効確認判決のもつ効力が取消判決に付与される効力の中にすべて包含されていることをも併せ考えると、取消訴訟と無効確認訴訟が単純併合され、両請求を認容できるときには、取消判決をすれば十分であり、重ねて無効確認判決をする利益はないものと解するのが相当である。本件の場合第一の4ないし6の土地の買収計画が取り消しを免れないことは、さきに述べたとおりであるから、これについて無効確認をする必要はない。

第二、その余の土地に関する原告らの訴えについて

一、被告委員会との間で買収計画の取消しを求める原告らの訴えについて

第一の1ないし3の土地及び原告恭子所有の第二土地について村農地委が原告ら主張の買収計画を定めたことは、その日時の点を除いて、当事者間に争いがない。そこで右買収計画に原告ら主張の違法があるか判断する。

(一)、第一の1ないし3の土地について

(1)、所有者誤認に関する原告らの主張について

第一の1ないし3の土地をもと利一が前所有者松本信蔵から買い受けて所有していたことは当事者間に争いがない。原告らは本件買収計画前に利一から原告恭子がさらに譲渡を受け、右計画当時は同原告の所有であつたと主張するので、この点について判断する。

成立に争いのない乙一六号証(判決書)によると、大阪高等裁判所昭和二五年(ネ)第三二三号、同第三三六号売買契約履行請求控訴事件(第一審原告は利一及び原告恭子、同被告は松本信蔵)の判決理由中において、昭和二〇年九月三〇日利一が第一及び第二土地を原告恭子に贈与し、昭和二一年八月二八日同原告が第二土地については所有権移転の本登記を、第一土地については所有権移転請求権保全の仮登記をしたものと判断されていることが認められるが、はたして右認定の日時に第一土地についても贈与がなされたかどうかの点については、右贈与の日時が右事件にとつてはさほど重要な意味を持つものでなく、第二土地については所有権移転登記をしながら第一土地については仮登記をしたにとどまる理由の具体的認定を欠いていることに照らすと、右乙一六号証の記載のみをもつてしてはなお本件買収計画前に同原告のため適法有効な贈与があつたものと認めるに十分でなく、他に右事実を認めうる証拠はない。すると右土地は本件買収計画当時も利一の所有であつたものとするほかはなく、原告らの主張は理由がない。

(2)、小作地でないとの原告らの主張について

前示乙一六号証(判決書)及び弁論の全趣旨によると、松本信蔵は大阪に出て青果商を営む計画をたて、昭和一四年五月一四日第一及び第二土地を代金坪当り五円で利一に売り渡したが、その後自分の都合で右計画を取り止めて、同年八月頃利一から右土地を反当り年玄米一石一斗二升五合(定免)の約定で期間の定めなく賃借し、引続き第一土地を耕作して、賃料も昭和二一年までは支払ずみであることが認められる。すると、第一の1ないし3の土地は小作農地であり、原告らの右主張は理由がない。

(3)、不在地主ではないとの原告らの主張について

第一の1ないし3の土地が利一の所有であつたことは前記(1)に認定したとおりであり、同人が本件買収計画当時堺市に居住していたことは原告らにおいて明らかに争わないから自白したものとみなされる。従つて右土地を不在地主所有の小作地と認めてなされた買収計画に違法はない。

(二)、第二土地について

(1)、附帯買収の相当性について

第二土地の買収計画が松本信蔵の買収申請にもとづいて定められたことは当事者間に争いがなく、前示乙一六号証、成立に争いのない乙一二、一三号証、同一四号証の一、二に弁論の全趣旨を総合すると、次のとおり認められる。

(イ)、第二土地はほぼ正方形の土地で、松本信蔵が古くからその北側約三分の一に居住、井戸小屋及び厩舎を、南側約三分の一に作業場と収納庫兼用の農具舎を所有していた。

(ロ)、同人は右居宅に居住して、右土地を取り囲む第一土地(合計六反二畝一一歩)を耕作し、右農具舎に農機具、収穫物等を収納するとともにこれを作業場として利用し、第二土地の中央部にある空地を脱穀場、物干場として、第一土地の農業経営にあたつていた専業農家である。

(ハ)、同人が、第一及び第二土地を昭和一五年五月一四日利一に売り渡したうえ、同年八月頃これを賃料反当り年玄米一石一斗二升五合(定免)の約定で期間の定めなく賃借したことは前認定のとおりであるが、その前後を通じて松本が第二土地を右(ロ)のとおり第一土地の農業経営のために利用していた情況に変りはない。

(ニ)、第二土地は昭和二〇年九月三〇日利一から原告恭子が譲り受け、松本との右賃貸借関係も原告恭子に承継された。

(ホ)、松本は第一土地の本件買収後その売渡を受けた。

以上の事実が認められる。ところで、第一の4ないし6の土地については、前判示のとおりその買収処分が無効であるから、松本は右売渡処分によつて所有権を取得することができず、買収計画前と同様賃借権にもとづいてこれを耕作していたものとするほかはないが、第一の1ないし3の土地についてはその売渡を受けて自作農となり、右認定のとおりその農業経営のためにも第二土地を使用しているのであつて、右第一の1ないし3の土地の面積が第一土地全体の約二分の一を占めることを考えると、第二土地は専業農家である右松本が解放農地である第一の1ないし3の土地の農業経営のために必要とする賃借宅地であると認められる。従つて、第二土地を右松本の申請にもとづき附帯施設として買収したのは違法でない。

(2)、二重買収に関する原告恭子の主張について

第二土地についてさきに被告ら主張の買収処分及びその取消処分があつたことは当事者間に争いがない。原告恭子はさきの買収処分自体が無効であるからその取消処分も無効であると主張するが、無効宣言の意味で行政処分の取消しをすることも適法であるばかりでなく、さきの買収処分が当然無効であれば本件買収処分が二重処分となるものでないことは明らかであるから、右主張はそれ自体失当である。また買収処分(買収令書の交付)は府知事の行う行政処分であるから、その取消しにつき権利ある行政庁も府知事と解すべきであつて、府知事にその権限がないとする同原告の主張は採用できない。他に右取消処分に無効原因があることについての主張立証はないから、さきの買収処分は右取消処分によりさかのぼつてその効力を有しないことが確定されたものというべく、本件買収処分を二重処分とすることはできない。

(三)、対価の違法について(共通関係)

買収の対価については、自創法一四条(一五条三項により準用される場合を含む)の訴えが認められている趣旨からみて、その額に違法の点があつても買収計画の効力には影響を及ぼさないと解せられるから、原告らの右主張はそれ自体失当である。

(四)、手続上の違法について(共通関係)

(1)、買収計画

成立に争いのない乙三、四号証によると、村農地委は、昭和二四年四月二三日の会議で、買収すべき農地として第一の1ないし3及び第二の土地の所在、地番、地目(土地台帳の地目及び現況)及び面積を、その所有者として利一または原告恭子の氏名及び住所をそれぞれ記載し、対価の額及び買収の時期を併せ記載した買収計画書(乙三号証の買収計画書中第一の4ないし6の土地に関する記載部分を除いたもの)にもとづいて審議し、その記載内容どおりの買収計画を定める旨の議決をしたことが認められる。買収計画を定めるには自創法六条二項所定の事項について審議議決されておれば足り、右認定の事実によると、同法条所定の事項の全部にわたり村農地委の審議議決が行われているから、右買収計画樹立の議決に欠けるところはない。買収計画書に、特定の議決にもとづいて定められた旨の記載やこれに関与した委員の署名をする必要はない。

(2)、公告

村農地委が買収計画を定めたときは、その代表者である会長がその権限で公告をすることができ、そのために村農地委の議決を必要とするものではない。また、買収計画の内容は書類の縦覧によつて明らかにされるのであるから、公告は単に買収計画を定めた旨を公告すれば足りる。本件では、文書の方式及び趣旨により真正に成立したと認められる乙五号証に弁論の全趣旨を総合すると、村農地委は昭和二四年四月二七日、自創法三条一項及び一五条一項により農地及び農業用施設買収計画を定めた旨を記載し、買収計画書の縦覧期間等を併せ表示した同日付村農地委会長作成名義の文書(黒山村告示第一五号)(乙五号証)を公示したことが認められる。右公告に、本件買収計画をそれ以前のものと区別する明示の記載はないが、告示番号、告示年月日、縦覧期間等の記載からみて、右公告がそれ以前の買収計画の公告ではなく新たに本件買収計画が定められた旨を公告するものであることは明らかであり、右公告にある農業用施設買収計画が、自創法一五条一項にいう厳格な意味での農業用施設ではなく、同法条にいう水の使用に関する権利、立木、土地又は建物を含む農業用附帯施設の買収計画という趣旨であることは、農業用施設という用語がしばしばより広い農業用附帯施設の意味に混用されているところから容易に推知することができる。右公告は、その表現方法に妥当を欠く点がないではないにしても、本件買収計画の公告として不適法ではないというべきである。

以上のとおり、第一の1ないし3及び第二の土地の本件買収計画は、実体上にも手続上にもなんら違法の点のない適法なものであるから、村農地委との間でその取消しを求める原告らの請求は理由がない。

二、被告委員会との間で、買収計画の無効確認を求める原告らの請求について

第一の1ないし3及び第二の土地の本件買収計画がなんらかしのない適法なものであることは右に述べたとおりであるから、その無効確認を求める原告らの請求が理由のないものであることは明らかである。

三、被告委員会との間で異議却下決定の無効確認を求める原告らの請求について(第一の1ないし3の土地関係)

第一の1ないし3の土地の本件買収計画に対して利一が異議の申立をし、その却下決定が同人に送達されたことは当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない乙七号証の一ないし三によると、村農地委は、昭和二四年五月二五日の会議で、同月一九日利一が申立てた右異議について審議して、これを排斥する旨とその理由を議決し、これにもとづいて村農地委会長は利一の異議を排斥する旨とその理由を右議決されたとおり記載した決定書を作成し、同月二七日右決定書を転写した決定通知書(乙七号証の三)を作成してこれを利一に送達したことが認められる。異議却下決定書は村農地委の代表者である会長が作成しても差し支えなく、本件決定書に右認定のような記載のある以上委員会の審判書としての外形をそなえていないとはいえない。

右土地の買収計画になんら違法の点のないことはさきに判示したとおりであるから、右異議却下決定には手続上も実体上もなんら違法の点はないものというべく被告委員会との間でその無効確認を求める原告らの請求は理由がない。

四、被告国との間で裁決の無効確認を求める請求について

第一の1ないし3及び第二土地の本件買収計画に関する訴願棄却の裁決書が利一及び原告恭子に送達されたことは当事者間に争いがない。右買収計画に違法のない以上、その裁決の内容にも違法の点はないから、以下原告らの主張する手続上のかしの存否について判断する。

成立に争いのない乙九号証の一、同号証の三ないし五に原告恭子の訴願につき本案前の判断の七において認定した事実を総合すると、府農地委は、原告恭子のさきの第一〇回買収計画に関する訴願を、本件第一二回買収計画に関する不服申立を含む趣旨のものとして取り扱うこととし、昭和二四年六月二八日の会議で、原告恭子の右訴願と、同月三日第一の1ないし3の土地について利一が提起した訴願につき審議して、これを棄却する旨の議決をし、これにもとづいて府農地委会長(府知事)が同日訴願を棄却する旨とその理由を記載した本件各裁決書(乙九号証の四、五)を作成したことが認められる。すると、府農地委は裁決の理由についても審議したものと推認すべきであり、右裁決の議決と裁決書の間に原告ら主張のような不一致はない。

以上の認定に反する証拠はない。次に府知事は会議の議長としてではなく、府農地委の代表者である会長としての資格にもとづいて裁決書を作成するのであるから、会議に出席していなくてもこれを作成することができる。裁決書を会長が作成しても差支えないことは異議却下決定の場合と同様である。

それゆえ、第一の1ないし3及び第二の土地の本件裁決は、実体上も手続上もなんらかしのない適法なものであり、その取消しを求める原告らの請求は理由がない。

五、被告委員会との間で、買収令書の交付(買収処分)の無効確認を求める請求について

府知事が第一の1ないし3の土地及び第二の土地の買収令書を利一及び原告恭子に交付したことは当事者間に争いがない。右土地の本件買収計画に実体上の違法がないことはさきに判示したとおりであるから、右買収令書の交付(買収処分)にも実体上の違法は存在しないものというべく、以下原告らの主張する手続上の違法原因についての判断をすすめる。

(一)、承認

村農地委は自創法八条の定めるところに従い遅滞なく買収計画の承認を受けなければならないのであるから、承認申請につき特別の議決がなくても、会長は村農地委の代表者としての資格にもとづき承認申請をすることができる。また、裁決の議決があれば承認をしても差し支えなく、裁決書送達ののちであることを要しないと解すべきところ、成立に争いのない乙一〇号証によると本件承認の議決があつたのは昭和二四年七月一日であると認められ、裁決の議決のなされたのは前認定のとおり同年六月二八日であるから、裁決の議決前に承認が行われた事実はない。右一〇号証に成立に争いのない乙一一号証を総合すると、府農地委会長(府知事)は右承認の議決にもとづき、昭和二四年七月一日付承認書を作成しその頃これを村農地委に送付したことが認められ、右議決と承認書の間に一致しない点はない。

(二)、買収令書の交付

原告らは、具体的事実にもとづいた主張立証をしないから、原告らの主張は理由がない。なお、買収令書の交付が買収の時期より多少遅れたとしても、これによつて買収処分が違法となるものではない。

以上のとおり、第一の1ないし3及び第二の土地の本件買収令書の交付には、実体上も手続上も無効原因となるかしは存在しないから、その無効確認を求める原告らの請求は理由がない。

(結論)

そこで、本件訴えのうち不適法な部分はこれを却下し、その余の部分のうち第一の4ないし6の土地につき被告委員会との間で買収計画の取消し及び異議却下決定の無効確認、被告国との間で買収令書の交付の無効確認を求める原告らの請求はこれを正当として認容し、その余の原告らの請求は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴九二条、九三条一項本文及び但書を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 前田覚郎 平田浩 井関正裕)

(別紙第一、二物件表省略)

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